星合:「裁判員制度の創設を機に、司法への関心をもちはじめましたが、弁護士さんや司法書士さんは私たちにとってまだまだ身近な存在とはいえません。昨年、個人的なことで、西村先生にアドバイスをいただく機会があり、はじめて弁護士さんに接してみて、身近に信頼できる法律家がいることは、とても心強いことと感じました。そこで、本日は、日常おこりうる比較的少額の事件にスポットをあてて、お話を進めたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
西村・高田:「よろしくお願いいたします。」
星合:「私ごとですが、先日ようやく念願の引っ越しがかない、心身ともにリフレッシュしました。」
西村:「引っ越しおめでとうございます。また、ベタなネタ振りありがとうございます。」
星合:「はい。前のマンションは約7年間住みましたが、その分、入居時に新品だったカーペットや壁紙の原状回復費用が結構かかり、敷金はほとんど戻りませんでした。」
高田:「『原状回復とは賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』といわれています。つまり、経年劣化は貸主が負担するのが普通ですよ。7年も住んだとなれば、カーペットや壁紙といった“消耗品"的な部分の修復の大部分は貸主負担になってもおかしくないと思いますが。」
西村:「そうですね、もちろん、個々の契約の内容や星合さんの住み方でもかわってくるとは思いますが。」
星合:「うーん。そうですか。でも、契約書に借主の費用負担で入居時の状況にもどすとありましたので、契約でそうなっている以上、しかたないかと。」
西村:「契約にはそれしか書かれていなかったのですか。かなり古いタイプの契約書ですね。昨今は、高田さんがおっしゃったような『原状回復』の定義をベースに、つまり、賃借人の故意や過失で破損・汚損した場合のみ負担することを原則として、さらに、賃借人の故意過失がある場合でも、もともと大家さんが負担するべき経年劣化分を考慮して負担を軽減するという考え方が一般的ですし、そうした考え方で細かく原状回復について書かれた契約書も近時は多くあります。これは、国土交通省や自治体などのガイドラインが浸透してきたことによるものだと思います。」
【国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインの要綱」はコチラ】
星合:「そういうガイドラインがあることは知っていましたが、賃貸契約書で定めていることの方が優先ですよね?ガイドラインはあくまでもガイドラインで、拘束力があるわけではないと伺っていますが。」
高田:「それ(契約が優先すること)は、そうなのですが、経年劣化を何も考慮せずに、すべて借主負担というのはどうでしょう。そういう古いタイプの契約の場合、国土交通省や都庁のガイドラインに沿った計算に基づいて交渉すれば、かえって、減額できる可能性が大きいと思います。」
西村:「そうですね、そういう意味ではガイドラインを考慮しつつ、貸主有利に細かく定めた契約書よりかえって交渉は楽かもしれません。旧来の契約書で締結している大家さんは、ガイドラインなどご存じない場合が多いでしょうから、そういうものをこちらから教えてあげることで、十分交渉の余地があるでしょうね。法律的にも、通常経年劣化による損耗を借主負担とする特約事項は、消費者契約法10条により、無効とする裁判例もありますし。」
星合:「そうですか。知らないと損しますね。そういったことは世の中沢山あるのでしょうね。ほかにどんなものがあるでしょう。」
西村:「誰しも遭遇する可能性のあるものとしては、例えば交通事故被害の場合の慰謝料があります。」
星合:「無保険のような場合はごく希だと思いますので、たいていは、保険会社がきちんと計算してくれるので、交渉の余地はないのでは?」
西村:「死亡事故や重度の後遺症がのこるような場合は弁護士を立てて交渉する場合が多いでしょうが、軽度の怪我の場合、わざわざ弁護士を立てずにご自身で保険会社と話合いをするケースがほとんどでしょうね。ですので、星合さんのおっしゃるように考える方が多いと思います。でも、実は、入通院に対する慰謝料も保険会社の提示する金額と裁判をすればとれるであろう金額では、後者の方が1、2割程度は高額になります。それぞれ、明確な基準があり、『保険基準』『弁護士(裁判所)基準』などと言われています。」
高田:「それから、意外と知られていないと思いますが、事故後の入通院の慰謝料でも、全額について事故の日からの利息が請求できます。保険会社の提示にはこうしたものはのってきませんよね。」
星合:「うーん。それは知りませんでした。ところで、『弁護士(裁判所)基準』というからには、弁護士をたてて裁判をした場合の話ですよね?」
西村:「必ずしもそうではありません。『基準』と言われるように、入通院期間に応じて明確な算定根拠がありますので、保険会社の出してきたものを、被害者の側で『弁護士基準』にひきなおして請求すれば、過失割合や入通院と事故との因果関係などに争いがないケースであれば保険会社もとりたてて争わず、そのまま応じる場合もあります。」
星合 由貴(ほしあい ゆき)
モデル
19歳からモデルとして活躍。テレビ、雑誌、各種イベント等多数出演。
趣味読書、ゴルフ
「一般の人にとって、司法はまだまだ異世界」と率直な感想を語る。
西村 由美子(にしむら ゆみこ)
弁護士
持前のパワーと責任感で離婚、相続等身近な問題から医療事件、企業法務まで幅広くこなす。
得意分野、特定商取引法、破産事件、離婚事件。東京弁護士会所属。
「個人や中小の会社の場合、弁護士への依頼にあたっては費用対効果がより直接的で切実な問題だと思う。そういった依頼者の方の率直な要望にできるだけお応えしたい。」と抱負と語る。
- コラム2-1 “相談限り”大歓迎! 少額案件でもまずはご相談を
-
弁護士や司法書士などの法律家は、常に依頼者の皆様の様々なトラブルに接して解決のお手伝いをしています。それだけに、一般の方々が遭遇する大小様々なトラブルに対して、どう対処するのかについての見識をそれなりに持ち合わせているはずです。
このような法律家の「見識」を身近に利用できれば、即解決といかなくても、気持も楽になりますし、解決への糸口がみつかるかもしれません。
相談限り大歓迎です。法律相談では着手金や成功報酬なども無用ですし、当事務所では、無料相談の場合でも、その後の有料事務の依頼を強要することは絶対にありません。(法律相談に関するポリシー)
私たちは、法律知識だけでなく、常に物事を冷静客観的に判断できるスキルや見識を磨くことを心がけております。皆様の悩みや不安を解消するお役に少しでも立てれば、これにまさる喜びはありません。是非、お気軽にご相談ください。
- コラム2-2 逆説!「引き際」を見極めるための法律相談
-
誰かに対して何か不満や要求があっても諦めざるを得ない。こういう事態はどなたも一度や二度は経験があるのではないでしょうか。それが「泣き寝入り」になってしまうのか、そうでないのかの分かれ目は、
「自分の言い分が正当なものなのか?」、「理にかなっているのか?」
をどこまで客観的に見極めて、的確な判断のもと「諦めることにした」のかにかかっています。さらに、要求をとおそうとする場合の費用対効果まで考えた上での結論であれば、それは、多少大げさかもしれませんが、「大人の勇気ある撤退」です。
こうした局面で、知識や社会でのご経験も豊富な方であればあるほど、いわゆる「セルフジャッジ」の機会が多くなりましょうし、確かに法律家に相談しても結論はかわらない場合も多いと思います。しかし、その場合でも、引き際を見極めるための最後の材料として第三者の意見を参考にするのは悪くありません。逆説的ですが「確信をもって諦める」ことで、気持の整理がつくこともあります。
星合:「本日のテーマ『費用倒れ』に話を戻したいのですが、私が預けていた敷金は2ヶ月分ですので、30万弱でした。このような少額の案件ですと、一般人の感覚として弁護士に相談するのがためらわれるのが本音です。」
西村:「そんなことはないですよ、先ほどの敷金や賠償金のように、弁護士を代理に立てなくても、きちんと法的な根拠を示していれば、交渉でなんとかなるケースも多々あります。まずご相談いただくことが大切です。」
星合:「相談しても、短い相談時間で、実際に妥当な敷金返還額や賠償金を計算したりまではやっていただけないですよね」
西村:「確かに、通常30分から1時間程度の相談時間でそこまでは難しいかもしれません。それ以前に、相談時に算定に必要な資料が十分になく、しようにもできない場合も多いでしょう。やはり、そこまで具体的なことになりますと、正式に依頼されてからか、2回目以降の相談時になるでしょう。」
星合:「事件として依頼すると、最低10万円程度の着手金がかかると聞きます。30万円弱の請求で少し高い気がします。費用倒れも心配です」
西村:「そうですね。当事務所を含む多くの法律事務所の報酬基準では、最低着手金は10万5000円とされています。しかし、これはあくまでも基準ですので事案に応じて交渉可能です。また、依頼の仕方も示談交渉や訴訟委任ではなく、ご本人名義で内容証明を作成督促のみを依頼するということも考えられます。その場合ですと、当事務所の報酬基準では、3万1500円です。」
星合:「しかし、内容証明といっても、要は手紙で催促するだけですから、結局相手が応じなければ、裁判なりしなければなりませんよね?」
高田:「確かにそうですが、われわれが作成する以上は、多くは法律的な根拠を示して請求するわけです。特に、先ほど例にあがった敷金や交通事故の賠償金などの場合、それなりに明確な算定根拠があり、実務的にも、そうした根拠に基づく請求であれば、相手方も任意に応じてくることが十分に予想されるものです。」
星合:「内容証明ではらちがあかない場合ですが、裁判となるとやはり自分では難しいというのが率直な思いです。そうなると、やはり、少額事件の場合、着手金というのがネックになりますよね。裁判で勝てるどうかもあらかじめわかっているわけではないですし。」
西村:「10万5000円というのは基準ですから、それよりも安く合意することもあり得るのでしょう。わたしたち弁護士も事案によっては、あらかじめのお話し合いで、着手金を0にして、その分、成功報酬を報酬基準より高めにいただくという場合もあります。いわゆる、完全成功報酬型といわれる、報酬契約の形です。」
星合:「そうしますと、敗訴すると、言葉は悪いですが、ただ働きになるわけですよね?」
西村:「はい、それだけ、事前の見通しにそれなりの自信がないとそうした形はとりづらいのは確かです。一般には、特殊な形といわれていますが、わたしは、実は一番一般の方々のご要望に合っているのではないかとも思っています。」
星合:「たしかに、そうかもしれません。費用倒れの不安がかなり解消されますよね。」
高田 和征(たかだ かずゆき)
司法書士
(簡易裁判所訴訟代理関係業務認定)
複雑な新法の手続きに精通した会社法のエキスパート。誠実と正確をモットーに少額の訴訟事件や本人訴訟のサポートも多数受任。「身の回りの小さなトラブルでも、早めにご相談いただくのが吉です」
- コラム2-3 簡易裁判所とはどんなところ?"
-
比較的軽微な民事・刑事事件を管轄する裁判所で、主要・中小都市を中心に全国で430か所あまりが設置されています。民事調停なども扱っており一般の方にとっては身近な裁判所と言えます。
民事事件については、請求が140万円以下の訴訟事件(行政訴訟は除く)の裁判や弁護士を含む有識者で構成される調停委員を仲立ちとして当事者の話し合いで紛争を解決する民事調停も扱います。
1回審理、即日判決を基本とする「少額訴訟制度」も簡易裁判所の管轄になります。
また、かつては弁護士に独占されていた訴訟代理業務が一定の認定を受けた司法書士にも開放されました。一般に、司法書士報酬の方が安価といわれており、少額な紛争の当事者にとって選択肢が広がりました。
刑事事件はもっぱら罰金刑に該当する罪の裁判をおこないます。
司法試験に合格して司法修習等の研修を修了した、いわゆる「法曹」だけでなく、しかるべき学識や学位を有する法学者なども裁判官として任命されるという特徴があります。
【参考サイト】簡易裁判所ホームページ
http://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kansai/index.html
- コラム2-4 少額訴訟手続きとは?
-
60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて,原則として1回の審理で紛争を解決する民事裁判の特別の手続です。60万円以下ですので、簡易裁判所が管轄になります。
対象は「60万円以下の金銭の支払を求める訴え」ですので、例えば価値が60万円以下であっても、中古自動車の引き渡しを求める裁判などは対象になりません。こちらは、通常の簡易裁判所での民事裁判手続きになります。
訴える側(原告)が少額訴訟手続での裁判を希望して、相手方(被告)がそれに異議がないときに限り、少額訴訟手続での裁判になります。
基本的に、1日で裁判は終わり、その場で判決がなされます。
判決では、裁判官が当事者(主に被告側)の状況を考慮して、分割払いとか支払の猶予期限を設けることができることになっているのも大きな特徴です。せっかくなされた判決を絵にかいた餅にしないための配慮です。
1日の審理ですので、最初の期日にそれぞれの言い分を尽くし、かつ、必要な立証をしなければなりません。したがって、証拠物や証拠文書を期日に持参する必要があることはもちろん(通常はあらかじめ写しなどを裁判所に提出しておきます)、証人などがいる場合には、その期日に必ず同行してもらわなければならないことになります。言い分については、訴状や答弁書あるいは事情説明書という文書を、期日前に裁判所に提出しておくことが肝要です。こうしたことも含めて、簡易裁判所に問い合わせれば、事細かに親切に教えてくれるはずです。
60万円以下の請求をしたい場合に、少額訴訟手続きをとるか、あるいは、通常の訴訟手続きをとるかの判断や、被告となった場合に異議を述べて通常訴訟にしてもらうかの判断においては、少額訴訟の特徴をよく把握することが必要ですので、以下にざっと挙げてみましょう
- 1回の審理、即日判決が原則
- 提出できる証拠(証人)は、その場で調べられるものにかぎられる。(現場検証とか1回目の期日にこられない証人などは不可です。証人の数もご本人を除いて1,2名程度でしょう)
- 判決に対して控訴はできません。ただし、当該判決を下した簡易裁判所への異議申立ては認められます。
- 相手(被告)が通常訴訟による審理を求めた場合には、通常訴訟に移行します。逆に被告がだまって少額訴訟手続きに応じて、期日に言い分を述べるなどの行為をしてしまうと、その後は移行の申し出ができなくなります。被告となった場合、少額訴訟でやることに異議があるなら、手続きの開始前に移行させる旨の申述をする必要があります。
- 被告側は少額訴訟の訴えに対して、反訴できません。事故や喧嘩などで50万円の賠償金を求められた被告が、逆に悪いのは原告で被害者は自分だとして30万円の治療費を求めるといった裁判を反訴といいます。少額訴訟手続きにのってしまうと、被告は反訴ができませんので、反訴がしたいなら必ず異議を述べる必要があります。
- 原告勝訴判決でも支払猶予や分割払いの判決となる場合があります。これは、被告の資力などを考慮して柔軟で実効性のある解決を図る趣旨です。
- 原告勝訴判決には自動的に仮執行宣言というものがつきます。判決が出ると確定をまたずに強制執行が可能です。(支払い猶予の判決の場合の猶予期間中は執行できません)。
- 少額訴訟債権執行制度により、被告の給与等の金銭債権を簡易な手続きで差し押さえることができます。
- 相手の住所が不明で訴状が送れない場合などには、利用できません。
- 少額訴訟制度の利用は、一当事者あたり、年間10件までという制限があります。貸金業者などが簡易な手続きを濫用して訴訟を多発して有無をいわせず取り立てることを防止すること、架空請求などへの濫用に歯止めをかけるなどのために、利用回数が制限されているのです。